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1.はじめに
こんにちは、HRサイエンス研究所の藤原です。
京都大学 人間・環境学研究科で2024年12月9日に開催された研究会に参加しました。主催は、株式会社シンギュレイトと弊社(ミイダス株式会社)。共催は、人間・環境学研究科附属学術越境センターでした。
研究会のテーマは「学術越境による社会実装をめざした心理学研究」でした。具体的には、産学が連携して行う研究や企業が行う研究の話題提供に加えて、産学による新たな研究の可能性を議論することを目的としていました。
研究会当日は、京都大学の教員、学生だけでなく、他大学の教員、企業研究者など20名ほどの方が参加し、様々な意見交換や交流で会場はおおいに盛り上がりました。研究会の様子をご紹介したいと思います。
2.研究会開催のきっかけ
研究会開催の発端は、京都大学 人間・環境学研究科 吉 西妍さんとミイダスHRサイエンス研究所との共同研究でした。彼女の専門は視覚情報処理で、「アンサンブルバイアス」と呼ばれる現象を研究されています。アンサンブルバイアスとは、様々なものがある状況で、ある特定のものの特徴についての記憶が、周囲にあった他のものを含めたものの特徴の平均値に偏って記憶されるという現象です。アンサンブルバイアスの研究は基礎的なものであり、実験室で統制された環境での研究が中心です。共同研究では、あえて実社会の様々な現象の中にアンサンブルバイアスで説明できるようなことがないかを議論しました。その結果、仕事場面における人事評価のように、集団に所属するある個人の評価が集団全体の評価に影響を受けるのではないかという疑問が生まれました。
ミイダス株式会社では、バイアス診断ゲームというサービスの中で働く人の認知バイアスのアセスメントを行っています。HRサイエンス研究所では、様々な認知バイアスのアセスメントや認知バイアスの個人差が仕事の成績に与える影響を検討しています。今回の議論の中で出てきたアンサンブルバイアスも認知バイアスに1つと考えられることから、実際にデータをとって検証する共同研究が実現しました。
なお、京都大学 人間・環境学研究科の「学術越境プログラム」の存在も、この共同研究を大きく後押ししてくれました。学術越境プログラムは学術分野をまたいだ研究や産官学連携、国際連携が必要な研究をサポートするための教育プログラムです。このプログラムの利用により、大学と企業での協働がスムーズに運びました。(参考:https://www.h.kyoto-u.ac.jp/academic/organization/center/)
3.研究会は秋の京都で開催されました
研究会が開催されたのは12月9日。京都は秋の観光客も若干落ち着いた時期で、京大構内では遅めの紅葉も楽しめました。研究会は10時からでしたが、開始早々にほぼ満席状態になり、参加者の期待の高さがうかがえました。
【産学連携での研究の紹介】
人材評価におけるアンサンブルバイアスの影響について、吉さんが発表されました。産学連携までの経緯、調査結果、現状の課題点や今後の展望などが報告され、参加者の皆さんもとても興味深く聞かれていました。予備調査段階の結果報告でしたが今後の展開に期待できる内容でした。個人的にはこれから実施される本調査の結果もとても楽しみです。
【企業研究の紹介】
ミイダスHRサイエンス研究所からは「働く中での制御焦点理論」について、シンギュレイト社からは「企業の1on1における対話の行動分析」について報告がありました。
どちらも社会人を対象として収集したデータを分析したものです。また、どちらの研究もサービス等での応用・展開を明確に目指しており、企業研究の意義を感じられるものでした。
制御焦点理論については、このブログにも記事があります(ブログ記事はこちら)。シンギュレイト社の研究についてはnoteで詳細が紹介されています(note記事はこちら)。
発表後の議論の時間では、実社会への応用についての質問や、アカデミックな場に閉じず社会実装を目指していくことの重要性が語られるなど、会場からも大きな反響がありました。研究会終了後も企業と大学の研究者が活発に意見交換しており、企業と大学の間にある壁を「越境」することへの関心と期待が伝わってきました。学生の参加者にとっては、自分自身のキャリア形成や、研究の応用を考えるきっかけになったのではないかと思います。
4.今後も企業と大学の越境を
今回はHRサイエンス研究所が主催した研究会の内容を報告しました。HRサイエンス研究所と京都大学との共同研究をきっかけとした研究会に参加してみて、企業側から積極的に情報発信していくことの重要性も感じました。若手の研究者や学生の中には、自分の研究について企業研究者とどう議論すれば良いかわからなかったり、そもそもどのように繋がりを作ればよいかわからないという人もいると思います。HRサイエンス研究所は、今後も企業と大学の「越境」の機会を作っていくようなので、越境によって実現される新たな研究の展開を楽しみにしたいと思います。